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【所長日記】「小さくても強い農業」がありうるか

みどりのまちづくりセンター所長小場瀬令二 みどりのまちづくりセンター所長 小場瀬令二 2017.5.16

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 最近農業関係の本を何冊か読んだ。私は農業の専門家でもなく、紙の上での勉強なので、どの程度当を得た議論が出来るか不安だが、読んだ本の感想文的なものを書きたい。

<「小さい農業で稼ぐこつ」本当だったら嬉しい本>
 都市農地のフォーラムが御茶ノ水にあるホールで開催され、出席してみた。その会場で「農文協」という出版社が出張販売に来ていて、そこで展示されていた本「小さい農業で稼ぐコツ」(西田栄喜 著、農文協出版、2016.2.5)という本をたまたま手に取り、購入した。ともかく、平易な書きっぷりで、読みやすく、面白くて、簡単に読破。

<暗い本が多い>
 こんなことを言うと、農業関係者に叱られそうだが、農業関係の本は「日本の農業を取り巻く厳しい状況」「食料自給率は年々下がっている」「農業従事者は減り続けている」「農産物の価格は下がり続けて」「農業機材をそろえるのに2000万円もかかるのに、収入は100万円を切る」等々、何とも気分は、暗く重くなる。嘘ではない話ばかりであろう。ですから、補助金行政が必要であり、他方農林水産省の方策が変わると、またまた、農家がそれに振り回され、―――。「農薬漬けの農業」「遺伝子組み換え農業」「有機農業は幻想だ」とも。「日本の農家の平均耕作面積は規模が小さく」「農家のほとんどは、兼業で、このため専業農家が規模拡大をすることは難しい」等々、なかなか農業関係で明るい話はない。

<明るい本に巡り合う>
 それに対して、この本を読むと、少し元気が出る。著者は、都会で働いた後、実家の農家を継ぐという道を選択。そのため、農地や農業用倉庫などの基本的な生産施設は親から譲られてという好条件ではあるが、日本の農家の平均的な耕作面積の1/10の広さ(3000㎡)ながら、能登半島の付け根当たりの場所で、野菜生産を中心に60品目程度を、ご主人一人で生産し、販売している。奥さんは、余った生産品を使ったりして加工食品を担当。「インターネット」があればこそ、「道の駅」があればこそ、色々な「農のフェスティバル」があればこそ、「地域の農家の仲間」がいればこそ、等々の幸運とご本人の努力の賜物で、日本一小さな農地で、年に1200万円程度売り上げを確保されている。経費を除くと、600万円程度の収入があり、家族5人幸せに、健康に、充実した日々を過ごせているようである。

<小さな農業でもやり方で生業になりうる>
 とにかく、まめに仕事をされていて、経営リスクを最小限にして(例えば、購入した農業機械は小型耕作機で140万円のみとか)、ちょっとしたチラシの作成や値段表の印刷でも、実に細かい配慮をしながら販売を伸ばす努力をされている。また、補助金は一切使わず、「スケールメリット」を目指すのではなくて「スモールメリット」(著者の造語)を活かしながら、有機農業や自然農業で少量多品目、加工・直売に取組んでいる。FacebookやSNSやブログなども頻繁に情報発信している。この本は農業関係者を読者と念頭にして書かれたが、まちづくりに関わっている人にも読んで欲しい。と言うのは、このフットワークの良さ、販売における小さな工夫の数々、などは、目からウロコが落ちる実戦のヒントがここにあり、実に参考になる。
 なお、同じ著者が引き続いて、「農で1200万円! ――「日本一小さい農家」が明かす「脱サラ農業」はじめの一歩」(ダイヤモンド社、2016.9.2)という本も出版されている。内容的には、前半の本の焼き直しですが、とにかく実践を踏まえた話なので、実に説得力がある。

<「小さくて強い農業をつくる」で産業として農に取組む>
 また同じような本で「小さくて強い農業をつくる」(久松達央著、晶文社出版、2014.11.25)も中々面白い。一流大学の「慶応義塾大学経済学部」を卒業し、一流企業の「帝人(株)」に務め、その中でも海外事業部で営業を経験した著者が、それに疑問を持って、農業経験も皆無であり、周囲からは農業者に向いていないと言われながらも、就農するという無謀な人生行路の舵を切る。規模が小さくても、有機農業に取組みながら、企業としてちゃんと採算にあうように奮戦している。

<コンピュータで武装した農業>
 ここでもインターネットやPCが役に立っている。また、農業のノウハウを経験とカンに頼るのではなくて、理論と言葉に置き換え、一緒に農業で働く一人一人が、情報共有をしている。つまり各人が前日の夜に、次の日の作業の目的、内容、必要な道具、所要時間等をPCでプリントアウトして勉強し、当日には各人が熟知して作業に取り掛かかる。とにかく「トヨタ方式」の生産システムを農業で行っている観がある。どちらかと言えば、理屈っぽい著者が、農業と言う一番理屈通りに行かない仕事場で、農業をシステマチックにして、ちゃんと採算を確保するにはどうすべきか、小さいながら頑張っている姿には、拍手を送りたくなる。

<「GDP4%の日本農業は自動車産業を超える」ってマジですか>
 もう一冊読んだのが、「GDP4%の日本農業は自動車産業を超える」(窪田新之助著、講談社、2015.12.18)。この本に書かれたことがどの程度真実と言うか、リアリティがあるかは、不案内であるが、実現化したら嬉しいというか、農業に対する見方が変わりそう。社会的にも農業の見方も世間的にもがらりと変わりそうである。

<日本の農業はすでに強い?>
 この本がターゲットにしているのは、日本の農業の中で、一番先端と言うか、少数者である。いわば農業者の前衛である。農地規模を拡大して専業農家を企業化し、農産物を輸出もできる、一大産業化を提唱している。今後は、零細、兼業農家は、農地をこのような専業農家に渡すことにより、日本の農業は、世界的に見ても競争力のある産業になるというのだ。今まで、農協関係者や農林水産省関係者、農水族政治家から発信されるマスコミ報道にもっぱら接してきた人間にとっては、夢のような物語である。確かに先進国の中でも、デンマークやフランス、オランダとか農業生産国のようになれる社会が広がりそうである。これらの国に行くと、農産物が豊富で、美味しく、加えて美味しいチーズが山のように店頭に並び---。

<「本当は強い日本の農業」は本当か>
 そこで、日本の農業の生産額や、農産物輸入額とか、主要国の国民1人当たりの農産物輸入額のグラフを示しながら、日本の農業について考察しているブログを読んでみた。
(http://ameblo.jp/orange54321/entry-11870660328.html)
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(資料出所:GLOBAL NOTE)

 この手のブログを読むと、本当が本当でないのかがよくわからなくなる。とりあえず説明をしたい。日本の農業生産金額は世界7位である。2012年の情報だが、農業生産金額は、各国の人口規模に左右されるが、中国⇒インド⇒アメリカ⇒インドネシア⇒ブラジル⇒ナイジェリア⇒日本⇒トルコ⇒イランと言った順位だそうである。先進国の中では、アメリカに次ぐ2位であり、我々が農業大国だと思っている、オーストラリアやフランスなどは10位以下。日本の農業生産金額は、就農者が少ない中で、大いに健闘している印象がある。

<農業輸入額を見る>
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(資料出所:H24農業白書)

 また、私なども、日本は自給率が低いと信じ込まされている。農産物輸入額(2010年)では、米国⇒中国⇒ドイツ⇒日本⇒英国⇒フランス⇒オランダ⇒イタリア⇒ロシア⇒スペインの順で、日本は確かに農産物の輸入額は多い方の国ですが、米国がトップと言うのは、何となく実感とかけ離れた感じである。このデータは人口規模に左右されるので、一人あたりの農産物輸入額でみると、ドイツ⇒英国⇒フランス⇒日本⇒米国の順である。これらの数字を見ると、日本の農業は様々な問題をはらんでいるものの、日本は農業大国のような感じである。フランスは、自給率100%を超えているとよく報道されているが、これで見るとどうも自給率100%を超えている国という神話もなんだか怪しくなる。

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(資料出所:H24農業白書、GLOBAL NOTE)

<国内産の餌を食べて育った畜産動物だけが国産だった>
 と言うことは、日本はすでに農業大国なのかもしれない。食料自給率が年々低下するという農林水産省からの情報も、「カロリーベース」で計算されたものだとか。このため、お米を作っていた農家が、減反政策の影響で、米作をやめて野菜生産にシフトすると、摂取カロリーで見ると、自給率が低下することになる。畜産物も「国内産の餌を食べて育った動物」だけが「国産」として計算されているそうである。 
 日本車がアメリカで部品も現地生産され、組み立てられて、現地で販売されている場合は、この車は、日本車なのか、米国車なのかよくわからなくなる。国産車の比率が高い低いというデータで、議論する場合は、十分に注意が必要である。これと同様に、農産物の自給率の話にも色々操作がされやすいということか。

<練馬の都市農業を今後発展させる>
 練馬にとって重要な都市農業は、日本の農業産業の中では、取るに足らないウェートしか占めていないかもしれないが、日本の農業に対する見方を、余り悲観的に考えずに、前向きで考えたいものである。今後は、都市農業が主要な産業となり、農地が拡大し、就農者が増加することもあるかもしれない。案外ありうる話かもしれない(乙女の話か)。