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【所長日記】借景から貸景へ―その育成の喜びは何か―

みどりのまちづくりセンター所長小場瀬令二 みどりのまちづくりセンター所長 小場瀬令二 2017.9.20

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景(かしけい)>
 「練馬の建築士会」を初め練馬在住の専門家の方々と「みどりのまちづくりセンター」が、この数年景観に関して研究会を継続してきた。その成果が最近まとまり、その表題はズバリ「景」である。主に道から見える緑をどのように整えていくかという提案で、多くの魅力的な事例が集められている。装丁も非常に洒落ていて、景観の冊子としてピッタリである(ただし、冊子は大変な人気で残部僅少となっている)。そこで今回は、「景」という提案が出てきた背景や、今後への展開をどのように考えるべきなのかについて考えてみたい。

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冊子「貸景のすすめ」表紙

<緑率ただ今降下中>
 練馬区は平成23年に立案した「みどりの基本計画」の中で、30年後に緑率(=航空写真で計測して緑で地面がカバーされている比率)を30%にするという一大目標を掲げている。大変わかりやい目標で、区民の方でも聞いたことがある方が多いと思います。しかし、平成18年の緑率は26.1%であったが、10年後の平成28年の緑率は24.1%に減少していることが判明。公共の緑の量は増加しているが、民間の緑の量は減少しているために、緑率が減少しているのである。確かに、この10年で、公園や道路の街路樹等は整備されたが、逆に、個人のお宅の緑や農地が、それ以上に減少気味である。宅地が分割されてミニ開発されたり、農地だったところにマンションが建つことで、緑の減少を目の当たりにすることも多い。そんなことで、このままではどうも緑率30%の目標は、危うい感じである。緑は練馬の景観にとって非常に重要な要素だけに、景観の悪化が危惧される訳である。
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緑被率について(練馬区ホームページより)

<緑率を上げるには>
 そこで、公共だけで緑化行政をしていたのでは、追いつかないということで、「鳥の目から見た緑の量=緑率」だけではなく、「区民の目から見た緑の量=緑率」で緑の量を増やしていくことを、区は検討している。緑率を上げるために、道路から緑が多く見えるようにするにはどうしたらよいかと言うことで、「景(しゃっけい)」ならぬ「景」という新しい概念が登場してきた訳である。

景>
 「景」の前に「景」を少し勉強しておこう。日本や中国の造園技法で、ポピュラーなのが「景」がある。庭園外の山や樹木、竹林などの自然物等を庭園内の風景に背景として取り込むことで、「前景の内庭」と「背景となる景」とを一体化させてダイナミックで豊かな景観を形成する手法である。この景のポイントは、自分の所の緑と、遠景の緑を一体化するという点である。自分の所には緑がなくて、他人様の緑を勝手に借りるというのは、「景」とは言わない。

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<観光地では景が皆で取組まれている>
 この「景」の概念を大々的に取り入れた景観形成手法としては、スペイン・コルドバの街が有名である。観光は大切だと言うことが、まち全体の共通認識となっており、皆で街を花鉢で盛り上げることが、当然のことになっていることを、この写真景観は示している。しかし、観光と言う経済の仕組みが成立していない地域において、誰が、この「景」を整備管理していけるのだろうか????

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外壁に花の植木鉢が並べられた通り(スペイン・コルドバ)
※「コルドバ 花植木鉢」で検索すると、画像がたくさん見られます

<利用されっぱなしの「景」を誰が育成・管理していくか?>
 今回まとめた「景」という概念は、自分の家の緑を自分だけで楽しむだけではなく、地域の中で自分も楽しみたいなら、自分の家の緑を豊かにして、地域に開放して、住民相互に「ウィン・ウィン」の関係を作りだし、緑豊かなまちにしようという考え方である。実に「画期的」で「先鋭的」な考え方であり、かつ「楽観的な!?」考えかも知れない。諸外国で取組まれ、日本でも多くの事例を見ることのできる「オープンガーデン」「ストリートガーデン」も、この「景」の考え方と同じような系統である。

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所沢市で実施されているオープンガーデンの「とことこガーデン」。所沢市内ですでに140軒近くの庭が登録され、街並みを形成しつつある通りもある。(所沢市役所のホームページより

<誰も景に取組まない!?>
 「景」を世に普及させていこうという時に一番問題になるのが、「誰がこの緑を育成し、管理するのか」である。多くの住人は他人がそうしてくれるのは「大賛成」だが、自分がやるのは「忙しくて無理」、「私の家には敷地がない」「お金が掛りそう」、「借家だし」、「自分は緑を見るのは好きですが、手入れをするのは面倒くさい」、「せっかく花を咲かせたのに、むしり取っていく人がいる」、「生垣は手入れがかかるので、ブロック塀の方が手間暇かからなくてよい」等々。負担しない理由を見つけるのは、実に簡単である。

景を担う人々の動議づけ>
 「景の育成・管理」を住民が積極的に取り組むには、動機づけがあるだろうか?観光地であれば、比較的その動議づけは分かりやすいが、観光と無関係な一般的な住宅地ではどうであろうか?「あなたの家は緑の景観に積極的に貢献しました」と区長の「感謝状」が貰えるということになれば、積極的に取り組む区民もいるかもしれない。また税制が変わって、「緑の景観に積極的に貢献している」と認定されると、固定資産税が減額されるという現実的な「ご褒美」がぶら下がれば、取り組む区民もいるかもしれない。
 しかし、現に取組んでいらっしゃる住民の方々は、何を考えて「景」に取組んでいるのだろうか?例えば、イギリスのオープンガーデンは、ボランティア活動で、入場料に相当するお金を徴収しながら(=ガイドブックの販売などの方法が取られている)、その収入を集めて、医療などに寄付をするという仕組みが出来ているようである。日本では、まだそこまで仕組みとして発展していない。考えられるのは、「景」が自分自身の楽しみとともに、「地域貢献」になっており、「社会に対して明らかに良いことをしていることは気持ちの良いことだ」という、ある種の「充実感」かもしれない。しかし、この充実感は重要で、「自分が社会に必要とされているという実感」、「自分には、果たせる社会的役割があるという自覚」、「他者に受け入れられている喜び」、「どこかに所属しているという安堵感」などであり、イギリスのオープンガーデンの所有者が医療へ寄付をする充実感と通じるところがある。特に、仕事などの第一線からリタイアした人にとっては、大きな意味があるだろう。

景を提供しようとする人を大いに元気づける>
 景に取組んでいらっしゃる方を元気づける方法として私が思いつくのは、景に取組んでいる人を見たら、「必ず声をかけよう!」、「その人の取組んでいることの苦労話や未来の展開を聞いてみよう!」、「あなたの取組をご教示して欲しい」などと話しかけてみることである。見も知らない人から急に声をかけられて、驚くかもしれませんが、きっと喜んでもらえるでしょう。特に、子供から声をかけられたら、涙が出てしまうのではないでしょうか!

景が連なれば街並みになる>
 景は1軒の家、一人だけで取り組めるところがいい所である。しかし、それが、ご近所数軒で取組まれるようになると、「街並み」となり、街としての価値を高めることが出来る。ただちに地価が上がるということにはならないが、その街並みを見て、購入したいという人は確実にいるでしょうし、少なくても、街並みがない場合よりは確実に多くなるだろう。特に、戸建住宅を購入する場合、ある程度の価格帯以上の住宅では、「街並みの良さ」といった要素は、購入の重要な動機のようである。(リクルート住宅総研2009年/住宅購入検討者調査/資料はこちら
 さらに、単純に緑量を増やす話ではなく、街並みとして緑を繋ぐとともに、緑と塀や門、玄関、玄関周りとのデザインの個性化と統合化により、緑を含めた建物が形成する街並み整序感を醸し出せるとよいのですが。

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思い立ったら吉日。
一人一鉢で出来ます
   趣味が高じてしまう
ことも出来ます
    ご近所で出来れば、
お互い自慢しあえます
     街で出来れば、歩くのが
最高に楽しくなります

「貸景のすすめ」からのピンナップ

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